ランタン山域(ネパール)トレッキング 2006年1月

気候

 トレッキングに適した季節は、空気が澄み山がよく見える乾季、即ち、秋から春にかけてである。気温等の関係もあり、秋が特によいと言われている。ヒマラヤの乾季は、大陸であることもあり、湿度が低く、1日の寒暖の差が大きい。標高約1400mで、緯度が奄美大島ぐらいのカトマンズでは、この季節、朝晩は東京と同程度の気温であるが、昼間は東京より暖かく、我々が行った1月初旬は、昼間は3月下旬の感じであった。標高が高くなれば、1000mで6度の割合で下がってゆくと考えればよい。我々が行った一番奥の村では、標高3900mであったが、今年は例年に比べ少し暖かく、最低はマイナス10度前後、昼間は5度前後ではないかと思われた。

服装・靴

 トレッキングとはいっても、かなり標高の高いところまで登ることがあり、また、1日の寒暖の差が大きいことから、気温は、厳寒から小春日和まで幅がある。また、昼間、我々は歩いており、運動量も多いため、薄着でもよい。そのため、重ね着によって温度調節することとし、想定される衣類は自分のリュックに入れて持ち歩く必要がある。最近は、軽量、速乾、透湿で保温性にも優れ、運動に適した素材が開発されており、そのような素材を使った衣類を使用すべきである。  また、トレッキングは歩くことであるから、靴はたいへん重要であり、次の条件を満たしていることが必要である。即ち、長距離、長期間歩くため、軽いこと。山に登るため、足首がぐらつかないよう、その部分まで高くなっていること。少々の雪道は歩く可能性があるから、防水性があり、軽アイゼンは付くようになっていることなどである。なお、今回、アイゼンを使う機会はなかった。 私を含め三流の体力や技術の持ち主は、一流の用具を使用する必要があると思います。そのことによって、やっと二流の力が発揮できるのではないか。

宿

宿の部屋は、たいてい板張りで、ベッドが備えられており、暖房はない。すき間風が少し入ることもあり、ある部屋では、窓のカーテンが揺れていた。ベッドには毛布程度は掛かっている。頼めば布団を一枚貸してくれる。冬用の寝袋に入り、この上に布団を掛けて眠った。また、部屋やトイレに明かりが無いことが多く、ヘッドランプは必携である。  食堂には中央に薪ストーブがあり、回りにテーブルがある。食事は、隣の部屋や少し離れたところにある台所から運ばれてくるが、一度にたくさんの料理を作ることができるようにはなっていないため、早めに頼んで待っていなければならない。食堂には日本以外からのトレッカーも一緒に居ることが多く、トレッキングという共通の趣味もあるため、話がはずむことが多く、楽しい。  

飲み水

 カトマンズでも、山中でもミネラルウォーターは売っている。山中の宿ではお湯を頼めばくれるため、プラスチックの変形自在の水筒(1リットル)に入れてもらい、持ち歩いた。これは、夜には湯たんぽ代わりにもなる。そのため、この水筒は保温カバー付きのものである。また、昼間、食堂で食事や休憩をする毎に、必要に応じ、お湯を補充した。

食事

トレッキングでは、標高は高くとも高地民族等人が住んでいるところを歩くため、粗末ながら宿はあり、食事もできる。しかし、現地の人々にとっては肉や魚は高級品でほとんど食べられないなど、食生活は貧しく、旅行者に出される食事も質素なものが多い。例えば、ゆでたジャガイモもりっぱなメニューの一つである。トレッキングルート沿いの宿のメニューはほとんど同じであったが、同じ料理でも宿によって微妙に味が違っていた。また同じ白ご飯でも、標高が高くなると、パサつき、まずかった。料理は、地元料理の外、パンケーキ、オムレツ、オートミール、カレー、チャーハン、パスタ、スープ類、ゆでたジャガイモ、フライドポテト、白ご飯等、飲み物は紅茶等と、色々あるのだが、私の口に合うものは少なかった。数少ない食べられるもので我慢するとともに、日本で、あるいは山に入る前の現地で調達し、携帯食や調味料、くだもの、缶詰等を持ってゆくとよい。湯は常に宿にあり、頼めばくれる。

入浴

トレッキングルートには、シャワー(宿にないこともある。水しか出ないことが多い。)はあっても、バスタブのある風呂はほとんど無い。そのため、シャワーが無くて、顔と首筋だけを水で洗うこともある。たまに温水のシャワーがあったが、シャワー料金は別払いであった。

トイレ

トイレは通常個室になっており、出入り口には扉も付いている。形は和風トイレに近い。水洗ではないが、尻を洗うための水がバケツなどに入れて置いてあり、水をすくうひしゃくも置いてある。そのため、トイレットペーパーで尻を拭き、更にトイレットペーパーを水で濡らして拭けば、ウォッシュレットに近い効果は得られる。携帯ウォッシュレットの持参は、テント泊の時だけでよいと思われる。このトイレの方式が理由かどうかは分からないが、ネパールでは、左手は不浄の手とされており、左手で食べ物を持ったり握手を求めたりしてはいけない。また、寺や仏塔を参拝するとき、常に右回りで、即ち右肩をそれらに向けるようにしなければならない。また、山道でマニ石(経文を刻んだ石)の脇を通るときも、その左側を歩くようにしなければならない。

下着等の洗濯、乾燥

洗濯は、シャワーがあればできる。また、シャワーがなくても、家の外に、食器洗いや洗濯のためにたらいやバケツを置き水を引いて盛りこぼしにしてある場合があり、頼めば、たいてい使わせてくれる。食堂には通常薪ストーブがあり、物干し用の紐が張ってあるので、頼めば洗濯物を干すことができ、たいてい、朝までには乾く。

自然保護

 美しいヒマラヤをそのまま後世に残すために、これを汚さない配慮をすることは重要である。ごみを持ち帰ったり、適切に処理したりすることは当然であるが、今回、山中では、衣類の洗濯は、洗剤を使わず、水だけで行った。また、同様に、歯磨きは、「歯磨き」を使わず、水だけで行った。

高山病対策

高山病は、体内に摂取されるべき酸素が不足することによって、初期には頭痛や食欲不振、心臓の鼓動の高まり等を招くものである。  摂取される酸素の不足は、次の要素が総合的に作用することによって生ずる。
@ 人間の体の酸素摂取能力
この能力は、各人の生来の能力や、空気の薄いところで生活しているかどうかなど生活環境、トレーニングによって養われた心肺機能等により、人毎に異なる。また、この能力は、生来のものを除けば、時間をかけ変化させることができるものである。
A 運動の種類や強度
短距離走やウェイトリフティング等の無酸素運動は、必要量に対し酸素をほとんど取り入れることなく運動するものであり、その性質上、体内に酸素不足を招く運動である。これに対し、長距離走などの有酸素運動は、酸素を取り入れながらエネルギーを創り出し消費するものである。この場合、消費されるエネルギーが摂取される酸素量に見合うものであれば酸素不足は生じないが、運動強度が大きくなると酸素不足が生じる。
B 体重
体重は、運動強度と相関するもので、体重が大きくなる程、運動強度は大きくなる。
C エネルギー消費量と酸素摂取量とのバランス
様々な要素によって決まるエネルギー消費量が、様々な要素によって決まる酸素摂取量に見合う量を超えるようになった時、高山病が起こる。  そのため、高山病を防ぐためには、日常の生活で、そして山に行った場合に、次のような配慮が必要である。
日常生活での配慮:
・ 心肺機能の強化
酸素摂取能力を高めるため、ジョギングをするなど心肺機能を高めるトレーニングをする。このことは、過剰な体重を減らし、運動強度を小さくする効果もある。
・ 筋力向上、体重軽減
重量物としての体を移動させる場合の運動強度は、体重を減らし、筋力を向上させるほど小さくなるため、そのためのトレーニングをする。
山行時の配慮:
・ 時間をかけ高度を上げてゆく。(高度順応)
空気中の酸素量の減少に対応した酸素摂取能力向上のために、できるだけ時間をかけて高度を上げ、酸素摂取能力を高めてゆく。
・ 酸素を多く摂取するため、薬を使用する。
人間は、飲んだ水からも酸素を摂取することができる。そのため、多くの水を摂取し多くの水を排泄し続ければ、多くの酸素を摂取し続けることができる。これをするための薬が利尿剤であり、高山病対策によく使われるこの種の薬がダイヤモックスである。
・ 無酸素運動をしない。
酸素不足を招く激しい運動である無酸素運動はしない。即ち、早く歩き過ぎない。
・ 有酸素運動を心がける。
自分の酸素摂取能力の範囲内の運動強度の運動を心がける。即ち、長距離、長時間にわたって歩き続けられるよう、ゆっくり歩く。更に、この範囲内で、一定時間内にできるだけ遠く高くまで歩くためには、長距離走の場合と同じように、できるだけ負荷一定で歩くことである。例えば、急な登り坂では、ゆっくりとした速さで、しかも、一歩の幅を狭くして登るのである。また、同様な趣旨で、足だけに過度の負担をかけてはならない。ストックを使うことにより上半身の力で、登りでは足への負荷を軽減し、下りでは足への衝撃を和らげるのである。ある日の夕方、ベッドに腰かけ登山靴を脱ごうとしたら腹筋がつりかけた。上半身も使っていると実感した。
・ 自分のペースで歩く。
特にグループで行動する場合、自分のペースで歩くことを意識する必要がある。最大の効果をあげるためには、自分に最適なペースで歩く必要がある。他の人と同一のペースで歩くことは、弱い人に過大な負荷を強いることになり、その人を早く潰しかねない。また、強い人にとっては力を十分に発揮できないことになる。従って、主要な休憩地や宿泊地は決めておき、その間は各自が各自のペースで歩き、各自で小休止を取るのがよい。そのため、ポーターは、一人毎に付けるのがよい。このようにして、グループは、最終目標に近いところまでは一緒に行くことができる。しかし、最終段階では、各自の体力や余力によって到達地点は異なってくる。最後の目標を目指す時、より体力や余力において劣った者は、より早く出発することによって、ゆっくりとしたペースで登るなどの工夫が必要である。また、体力等に差があるのだから、日程に制約がある以上、最終到達点が異なることになってもやむを得ない。協力できるところは協力するとともに、他の人の足を引っ張らないようにしなければならない。
・ 酒を飲まない。
  頭痛や食欲不振など高山病の症状は、体が変調をきたしていることを示す警鐘である。我々は、この警鐘を知覚することにより体の状態を把握し、事態に対処することができる。酒は、人間の感覚をにぶらせ、この警鐘の把握を困難にし、知らないうちに体の状態を悪化させる恐れがある。

常に服用した方が良い薬


整腸剤(ビオフェルミン):
慣れないものを食べ、沸かした現地の水を飲み、また、軽度の高山病による食欲不振があり、時にはストレスがたまることもあるため、整腸剤はできるだけ毎食後飲む。
 ビタミン剤等:
  エネルギー代謝の促進、有害な活性酸素の除去等々のため、次のビタミン剤等を摂取する。
  ビタミンB,C,E, ベータカロチン

旅の形態(グループの場合を含めた個人旅行か、パック旅行か)

個人旅行とパック旅行についての、費用の違い、旅の段取り(計画立案や手配)に伴う苦労の程度の違い以外の事柄について述べる。
個人旅行は、一般に、誰かが誰かに奉仕するということではなく、同好の士が互いの強みを活かして協力することにより、各自単独で行く場合に比べ、各自がより大きな成果を得ようとするものと理解することができる。そのためには、協力すべきは協力し、そうでない部分は、各自の能力の違いや自由を認めることが必要である。この結果、各自が自分のペースで歩くことができ、落ちこぼれが少なくなる。また、最終的に、各自が、その能力に応じて質的により高いところまで到達することができ、各自が満足感を得られる。また、メンバーの間に合意し易い環境があるため、途中での計画変更が容易であり、そのため現地の状況に合わせた計画変更が容易である。このことも、より良い結果を得ることができることにつながる。 一方、パック旅行では、逆に各自の自由なペース設定が困難であり、また、合意形が困難であるため、各自の満足感にばらつきが出やすく、各自の最終的な到達点も個人旅行に比べれば低くなる可能性がある。パック旅行では、主催者が現地の事情に通じており、また組織力もあるため、安心感があるという利点がある。しかし、個人旅行の場合、これらの点を現地の旅行社やその他の情報源を利用するなどして克服することができれば、利点が多いと考えられる。
今回の旅は、この個人旅行を実践したものであり、成功であった。即ち、期間等の制約条件の下で、各自の能力の限界に近いところまで到達できた。標高でいえば、2人は4773mまで到達し、他の1人はその数百メートル下まで到達できた。実は、今回のトレッキングの内容は、「地球の歩き方」によれば、通常もう一日必要な内容である。 旅の準備段階で、堀田氏は体験に基づき高山病対策、服装、その他持参品などトレッキングのノウハウを提供し、私は、ネパールに技術協力のため日本政府から派遣されている専門家及び現地旅行社から現地の情報を得、計画策定に活用するとともに、現地での移動手段(ランドクルーザー)の手配をした。現地では、堀田氏が、実地に具体的にノウハウをメンバーに伝授するとともに、私が主に通訳をし、場合によっては、2人に代わり交渉をした。

トレッキング関係旅の費用(帰りのタイ滞在費は含まず)


 成田・カトマンズ往復旅費(自宅から) 140000円
 バンコク乗換え時宿泊・朝食        6000円
 カトマンズ宿泊費 (2泊)        7000円
 カトマンズ食費(2日)          3700円
 カトマンズ・シャブルベンシ間交通費   12800円
 ポーター雇用費(5日)          4800円
 現地宿泊費・食費(6日、車移動日含む)  6500円
 持参食料品等(現地調達含む)      10000円
 地図、入園料、空港税その         7000円
 合計                 197800円